ご無沙汰しております。ガツです。
先日,予備試験の口述試験の合格発表がありました。合格された方,本当におめでとうございます。そして,いよいよ本格的に選択科目の勉強を始める人も多いと思います。そこで,今回は,僕の去年の司法試験労働法の再現答案をアップしたいと思います。あくまで,後輩たちの参考になればいいと思いアップするので,変な使い方はしないでくださいね。

労働法の点数は74点で,順位は9位です。BEXAの加藤先生の過去問解説講義及び論証集講義をかなり参考にして書いた答案なので,是非興味のある方は,加藤
先生がリリースしている各講義を受講してみてください。

ちなみに,僕はBEXAの回し者でもなんでもありませんので,下のURLをクリックしたからといって,僕にお金が入ることはありません。どうぞご安心ください。どうしても僕にお金をあげたいという方がいらっしゃる場合は,現金書留で和光の寮までお送りください。




あと,再現答案はワードで作成したものをコピーして貼付けただけなので,表記ゆれがかなり発生していますがご容赦ください。また,司法試験が終わったあと少し期間をおいてから作成した答案なので,実際に僕が現場で書いた答案よりもかなり長くなってしまっていると思います。そのあたりも踏まえて利用してください。


第1問

1 設問1

1 Xは,本件解雇が無効(労働契約法(以下「労契法」という)であると主張して,Xについて労働契約法上の地位にあることの確認,及び,解雇期間中の賃金支払い(民法5362)を請求することが考えられる。

(1) 本件解雇は,即日解雇であるにもかかわらず解雇予告手当が支払われていない。そこで,Xは,本件解雇につき労働基準法(以下「労基法」という)20条違反を主張することが考えられる。

  このXの主張に対して,Y社は,本件解雇は,Xという「本人の責めに帰すべき事由による解雇」(Y社就業規則(以下「規則」という)33条但書)であるので,解雇予告手当を支払わずとも適法であると反論することが考えられる。

  この点について,規則33条但書は,労基法201項但書と同様の規定を就業規則にいて定めたものであると考えられる。そのため,「本人の責めに帰すべき事由」による解雇とは,本人に懲戒解雇に相当する非違行為があることを理由とする解雇であるものと解する。

  たしかに,Xは,Xの上司がXに対し「勤務改善の誓い」という文書にサインするように求めたところ,Xは「いい加減にしてください」と大声で叫びそれを破り捨てた。そのため,一見すると業務命令違反という懲戒解雇事由(規則404)がXにあったとも思える。しかし,PがXに対して,前述のように命じた「勤務改善の誓い」へのサインは,前日に生じた客との小さなトラブルを非難するものである。また,PとXは以前から折り合いが悪く,実際,XはPから不当に低い成績評価を受けていた。とすれば,上記PのXに対する命令は,業務命令というよりはむしろ,PのXに対するいやがらせが主たる目的であるものと考えられる。とすれば,PのXに対する命令は,正当な「業務命令」(同号)とはいえず,それに反抗したXについても,業務命令の懲戒事由該当性は認められない。さらに,Pの命令が不当である以上,Xが大声を出して書類を破り捨てる行為は,「会社の…正当な業務を妨害したとき」(同号)ともいえない。

  したがって,本件解雇においては,規則33条但書,労基法201項但書該当性が認められない。ゆえに,Y社はXに対して,30日分の平均賃金(121)を,解雇予告手当として支払わなければならない。にもかかわらず,Y社は,本件解雇に当たって,解雇予告手当を支払っていない。そのため,本件解雇は労基法20条に違反する。

  もっとも,解雇予告手当が支払われなかった即日解雇であっても,使用者が即日解雇に固執しない場合で,使用者が労働者に30日分の平均賃金を支払った場合,又は,即日解雇から30日が経過した場合,解雇の効果は発生するものと解する。

  そのため,Xの主張の通り,本件解雇が労基法20条に違反するものであっても,当然に無効とならない。

(2) 本件解雇は,解雇権の濫用に当たり,労契法16条によって無効になるとXが主張することが考えられる。

ア 期間の定めのない労働契約においては,解雇は原則として自由になしうる(民法6271)。もっとも,就業規則に普通解雇事由を定めた場合,使用者は期間の定めのない労働契約を締結した労働者を普通解雇する場合,その解雇事由に拘束されるものと解する。

  Xは,Y社と期間の定めのない労働契約を締結している。そこで,本件解雇について,Y社就業規則に列挙された普通解雇事由(規則32条各号)該当性が認められるか検討する。

  たしかに,Xの成績はどんどん低下していっており,また,スタッフミーティングの際に,前述のように,Pの命令に反抗し,書類を破り捨て,大声をあげている。そそため,Xについて「能力不足」「勤務成績…不良」(規則322)や「協調性…責任感」の欠如(4)という普通解雇事由が認められるとも思える。しかし,Xの成績の低下は,前述した通り,PとXとの折り合いの悪さに由来するPのXに対する不当な成績評価に由来するものであり,客観的にXの成績が悪いことを示す事情はない。また,Xがミーティングで大声を上げ書類を破り捨てたのも,Pによるいやがらせのような命令に対するものであり,Xにのみ帰責性があるとはいえない。そのため,上記の懲戒事由にXが該当するとはいえない。さらに,Xの成績不良に「改善の見込みがない」(規則322)とはいえない。

  したがって,本件解雇ついて,Xに普通解雇事由該当性は認められない。

イ 仮に,Xに普通解雇事由該当性が認められたとしても,本件解雇が合理性を欠く場合,無効となる(労契法16)

  そして,普通解雇は労働者に重大な影響を与えるものであるので,最終手段としてのみ認められる。そこで,①労働者の能力不足が重大で解雇がやむをえないといえ,②使用者が客観的に期待される解雇回避努力を尽くしたが,労働者に改善の見込みがまったくないといえる場合に限って,解雇に合理性が認められると解する。

  前述した通り,Xの成績不良は,Pによる不当な成績評価に由来するものであり,客観的にXの成績が不良であるという事情はない。そのため,①は認められない。また,Y社は数軒の飲食店を経営する使用者であるので,Y社としては,XとPの折り合いが悪く,本件のようなトラブル・衝突が発生したのであるから,Xを他の飲食店に配転することを検討するべきであったといえる。また,かかる配転は数軒の飲食店を経営するY社にとって客観的に期待可能である。にもかかわらず,Y社はXの配転等を検討することなく,即日解雇を行っている。ゆえに,解雇回避努力を尽くしたとはいえない。そのため,Xに改善の見込みがいないともいえない。そこで,②も認められない。

  したがって,本件解雇は「客観的に合理的な理由」(労契法16)を欠く。

ウ 仮に,合理的が認められたとしても,本件解雇は,社会通念上の相当性を欠き,無効である(労契法16)とXは主張することが考えられる。

  普通解雇は,労働者や使用者等の事情等を考慮して,労働者にとって酷すぎるものであってはならない。また,その不利益の大きさから,普通解雇するに当たっては使用者に説明義務や労働者の意見聴取義務が信義則(労契法34)上課される。

  Xは,たった一回のPとのトラブルを直接的な契機として解雇されている。また,前述のように,Xの帰責性は小さく,むしろPやY社の側に帰責性が認められる。また,本件解雇はXにとって突然の解雇であり,予告手当ても支払われていない。そのため,Xの受ける不利益は非常に大きく,Xにとって酷すぎるものといえる。

  また,本件解雇に当たってY社はXに対して,十分な説明を行っておらず,通知のみによる理由提示を行っているにすぎない。また,Xに対する意見聴取もなされていない。 

  したがって,本件解雇は相当性を欠く。

2 以上より,本件解雇は,労契法16条により無効であるので,Xの上記請求は認められる。

2 設問2

1 Y社としては,改めてXを懲戒解雇するという対応を採ることが考えられる。 

 もっとも,Y社は既にXを普通解雇しており,XとYは労働契約関係にない。そのため,懲戒することができないのではないかが問題となる。

  この点,懲戒するためには,労働契約関係が必要である。そして,本件解雇により労働契約関係が終了していた場合,Y社はXを懲戒する前提を欠くことになる。しかし,XはY社に対し,本件解雇の無効を主張して訴訟を提起している。そのため,本件では,本件解雇が判決により無効とされ,なおXY間の労働契約関係が存続していることとなる可能性があり,また,その可能性は前述のように低くない。そうだとすれば,Y社としては,本件解雇が無効とされた場合に備えてXを懲戒解雇する必要性が高い。また,懲戒権濫用に当たらない限り,Xの受ける不利益も不当なものとはいえない。

そこで,本件でY社は,本件解雇が無効であるとの判決が確定することを条件に,Xを懲戒解雇することは可能であると考える。

2 懲戒解雇の有効性

(1) 本件解雇は,実質的に懲戒処分であると考えられ,そうであるとすれば,本件懲戒解雇は,懲戒事由の追加に当たり許されないとも思える。しかし,仮に本件解雇が懲戒解雇の実質を有していたとしても,Xの中途退学という非違事由は,本件解雇時にはYに判明していない。とすれば,Yにとって,本件解雇時に当該非違事由を考慮することは困難であったといえ,とすれば,懲戒事由の追加であったとしても,別の処分であると考えれば,許されると解する。

(2) 懲戒事由該当性

  使用者が就業規則に懲戒の種別・内容を定めた場合(労基法899),かかる就業規則が合理的で周知されていれば,労働契約の内容となり(労契法7),使用者の懲戒権が基礎付けられると考える。その上で,懲戒をすることができるのは,就業規則に定められた懲戒事由該当性が認められる場合に限られる。

  Y社は,飲食店を経営する事業者であり,Xは試用期間を経て,飲食店の接客係として採用された。そして,接客の技術・知識を学べるホテルの専門学校を卒業しているかどうかは,Xが接客技術を有しているか否かに関わる重要な事項である。そして,その点に詐称がある場合,XY間の労働契約にとって重大な事項に詐称があっといえる。したがって,「重要な経歴を詐称して…採用された」(規則401)という懲戒事由該当性がXには認められる。

(3) 合理性

  懲戒解雇は労働者にとって重大な不利益を与えるものであるので,非違行為によって害された企業秩序と,労働者の受ける不利益が均衡していない場合,合理性が認められないこととなり,懲戒権の濫用(労契法15)に当たり,無効となる。

  Y社は飲食店を経営する事業者であり,Xは飲食店における接客係として採用されたのであるから,ホテル専門学校を卒業したという事実を偽るXの非違行為は重大であり,Y社の企業秩序を侵害する程度は非常に大きい。そのため,Xの受ける不利益との均衡を欠くとはいえない。よって,合理性は認められる。

(4) 相当性

 懲戒解雇は,処罰と類似するので,弁明の機会の付与が信義則上要求される。また,懲戒解雇が,労働者等の事情に照らして酷すぎるものであってはならない。

 そこで,Y社は,Xを懲戒解雇する場合,Xに対して,十分な弁明の機会を与える必要がある。また,Xの学歴詐称についてXに酌むべき事情はない。

(5) 以上より,Y社は改めてXを懲戒解雇することは可能であるが,十分な手続保障の機会を与える必要がある。


第2問

1 設問1

1 救済手段について

(1) 行政的救済

 X組合は,ビラ撤去が支配介入の不当労働行為(労働組合法(以下法名省略)73)に当たると主張して,所轄の都道府県労働委員会に対して,ポストノーティス,ビラの原状回復等の救済命令の発出を求める申立て(27条以下)をすることが考えられる。

(2) 司法救済

 X組合は,裁判所に対して,不法行為(民法709)に基づき,Y社に対して,ビラ撤去によりXに生じた無形損害の賠償請求を裁判所に求めることが考えられる。

2 ビラ撤去の支配介入該当性

(1) 73号の「支配」「介入」とは,組合の自主的な組織運営に干渉し,組合の組織を弱体化させる一切の使用者の行為をいう。

  そして,本件ビラ掲示は,本件労働協約によりXが使用することが認められている掲示板になされているので,Y社の施設管理権を侵害するものではない。そのため,ビラの撤去は,Y社の施設管理権の行使としては正当化されない。もっとも,本件労働協約(以下「本件協約」という)29条には,同28条に違反したビラについては,Y社が撤去することができると規定されている。そして,同条は,労働協約の債務的効力について定めたものと考えられえる。そこで,本件ビラ掲示が,28条の要件を満たさない場合,ビラ撤去は29条の債務的効力に基づく行為とはいえず,Y社のX弱体化意図が推認されることになり,その結果,本件ビラ撤去は支配介入の不当労働行為となると考えられえる。

  そこで,以下,本件ビラ掲示が本件協約28条に違反するか検討する。

  本件ビラには,Y社が正当な理由なく団交拒否(72号参照)していると記載されている。そこで,Y社の団交拒否に正当理由がないといえるか検討する。Aの賞与査定は,組合員の労働条件その他労働者の待遇に関する事項であり,Y社に解決可能な事項であるので,義務的団交事項(16条参照)に当たる。そして,Y社は,Aの賞与査定については,苦情処理委員会で十分議論されたのであるから,団交で説明する必要はなく,団交拒否の正当理由があると主張している。しかし,苦情処理委員会は労使合意で設けられた制度に過ぎず,法で保障された団体交渉(72)とは,別の制度である。その上,委員会でのやりとりは原則として非公開である(協約51)ので,その他の組合員はその内容を知ることができない。そのため,改めて団体交渉でY社が説明をする必要性は高い。したがって,正当理由は認められない。よって,Y社が正当な理由なく団交拒否している旨の記載は,「事実に反」する(協約28)ものとはいえない。

  もっとも,不当な賞与査定であるかどうかは未定であり,「事実に反」する可能性は高い。また,Aの上司によるセクハラ行為であるとの記載も,「個人をひぼう」するものであり,セクハラ隠ぺいでありコンプライアンス上重大な問題があるとの記載も,その事実が未定である以上「職場規律を乱す」ものといえる。よって,本件ビラの内容は,協約28条に違反する。また,委員会でのY社の主張を紹介することは,協約51条にも違反する。

  そこで,ビラ撤去は,同28条,29条に従ったものである。また,その他Y社のX弱体意図を推認する事情もない。

(2) よって,ビラ撤去は,支配介入に該当しない。ゆえに,Xの上記申立て,請求は認められない。

 

2 設問2

1 救済手段について

(1) 行政的救済

 Xは,本件協約の解約とチェックオフの中止は支配介入に当たると主張して,労働委員会に対し,チェックオフの再開,中止されていた期間の組合費をXに支払うよう求める救済命令の発出を申し立てることが考えられえる。

 そして,本件協約の解約が支配介入に該当する場合,無効となる(憲法28)。そのため,なお期間の定めのない本件協約は継続されていることとなる。とすれば,上記の救済命令は,私法上の権利関係に一応は一致し,強行法規(労基法24条等)に違反することにもならない。ゆえに,上記の救済命令は,労働委員会の合理的裁量の範囲内にあるといえ,許される。

(2) 司法救済

 Xは,Y社に対して,不法行為に基づき,本件協約の解約,チェックオフの中止によりXに生じた損害の賠償を請求することが考えられえる。

2 労働協約の解約によるチェックオフの中止の支配介入該当性

(1) 支配介入とは,前述の通り,組合の自主的な組織運営に干渉し,組合を弱体化させる一切の行為をいう。

  そして,期間の定めのない労働協約(14)の解約は,1534項の手続によれば,原則自由になしうる。もっとも,使用者の一方的な労働協約解約は,組合に与える不利益が大きいので,合理的な理由がない限り,使用者の組合弱体化意図が推認される。その結果,支配介入の不当労働行為に該当することとなる。

Y社は,本件協約の解約の理由として,春闘の難航により信頼関係が破壊されたことを主張している。しかし,春闘によって合意されるのは,給与などの労働条件を定める協約であり,本件協約とは別物である。ゆえに,春闘の難航と本件協約は直接的に関係がない。また,春闘の難航は通常予想されることであり,それだけで労使間の信頼関係が破壊されたと判断することは困難である。そうだとすれば,解約には合理的な理由は認められない。

したがって,解約には支配介入が成立する。そして,憲法28条の団結権保障の見地から,支配介入に該当する法律行為は無効となる。ゆえに,解約は無効となり,なお本件協約は存続しているものと考えられる。とすれば,本件チェックオフの中止もその根拠を欠く。

(2) よって,上記Xの救済申し立て,請求は認められる。

以上になります。